プロモーションとは「マーケティング活動の一部としてその他要素と連動しながら、適する手法を用いてターゲットに提供価値を伝えていくこと」です。プロモーション戦略とはその戦略を練る事となります。
17年に渡りプロモーション戦略立案とその実行に従事し、ありがたいことにもクライアントから総額で数百億円ものプロモーション費用をお預かりしてクライアントのビジネス成長に寄与するプロモーション戦略を立案し実行する機会に恵まれた著者として申し上げたいのは、すべての企業に「プロモーション」は必要だということです。
総務省統計局発表の「令和3年経済センサス-活動調査」によると、法人・個人合わせて日本には367万もの企業が存在していますが、各社が企業活動を営む中で、どのような企業にも共通している活動、それが「プロモーション」です。
大企業はTVCMなど大がかりなプロモーション施策を実施し、飲食店等の中小零細企業では店頭看板の設置やSNSでの投稿を行っています。BtoB企業であっても、営業マンが顧客企業に対して営業ツールを活用して提案を行いますが、これも列記としたプロモーションです。
つまり、いかなる企業においてもプロモ―ションを行っているのであれば、「なんとなく」プロモーション戦略を立案するのではなく、「緻密に計算された」プロモーション戦略を立てることが「本来は」必要なのではないでしょうか。本稿ではその重要な「プロモーション戦略」について、解説も交えながら、立案ステップを13に分けてご説明していきます。
また、その中で、9つのフレームワークも活用しています。既存のフレームワークも勿論活用致しますが、著者が18年以上にわたり多くのクライアントのプロモーション戦略立案のお手伝いをさせて頂いた中で、どうしても今までにない情報整理と連動、法則等の「フレームワーク」が必要になったがために独自でフレームワーク化したものもございますのでご了承ください。30分ほど読了までお時間はかかりますが、本稿は、以下のようなお悩みをお持ちの方におススメの内容となっております。
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✔ そもそもプロモーション戦略がわからない
✔ 本来実施すべきプロモーションがわからない
✔ CVRを上げてもCV数が上がっていかない
✔ A・Bテストを繰り返してもCVまで至らない
✔ CM好感度は高くても商品の売上が上がらない
✔ デジタルマーケティングは行ったが売上鈍化
✔ デジタル以外の、マスやPRがわからない
✔ 広告代理店の提案に納得がいかない
それでは早速ご説明いたします。
目次:【完全版】プロモーションとは?成功のための13ステップとフレームワーク9選
╲本記事は読了まで30分程度要します╱
じっくり読みたい方のためにE-bookもご用意しております。
【完全版】プロモーション戦略
プロモーション戦略をご説明する前に、まずは「マーケティングミックス」からご説明していきます。世の中には「マーケティングミックス」の定義が数多存在していますが、ここでは「市場に対して行う活動の要素の分類と連動」とお考えいただいて問題ありません。実はこの「連動」の部分がなされていないことがプロモーション領域の最大の問題なのではあるのですが、こちらについては後述していきます。
さて、その「マーケティングミックス」について、これまで数多くのフレームワークが提唱されてきました。エドモンド・ジェローム・マッカーシーというアメリカのマーケティング学者が提唱した、製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)で分類した「4P」が最も一般的です。
その他にも、同じくアメリカ人経営学者で「マーケティングの神様」とも称されるフィリップ・コトラーが「プロフェッショナル・サービス」の中で提唱した、上記「4P」に物的証拠(Physical evidence)、プロセス(Process)、人(People)を加えた「7P」や、同じくアメリカ人マーケティング学者のロバート・ラウターボーンが1993年に提唱した、Consumer(消費者)、Customer cost(顧客コスト)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)の「4C」という顧客の立場に立つフレームワークなどがあります。どれが正しいというものではなく、共通しているのは「市場に対して行う活動の要素を分類している」という点です。
これらの違いは、「視点および強調箇所の違いや、さらなる分類を行ったかどうか」だけかと思います。本稿のタイトルでもある「プロモーション」はマッカーシーの「4P」フレームワークを採用していますが、日本においても最も流通しているこの「4P」を前提として、そのうちの一つである「プロモーション戦略」についてご説明していきます。
マッカーシーの提唱した「マーケティングミックス」は上述の通り、製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)です。最も一般に流通している理由は明確で「役割分担のしやすさ」に他なりません。製品を作り、価格を決め、プロモーションを行い、流通をさせていくという各々の役割を企業においては組織化または担当化しやすかったということです。しかしながら、あくまで主語は「提供価値」です。
製品(Product)が主語のように説明されることも多いのですが、「価値をどういう商品/サービスで提供するか」が製品(Product)でありますので、主語はあくまで「提供価値」となります。よって、4Pの説明は以下といたします。
Place:どこで価値を提供するか
Product:どういう商品/サービスで価値を提供するか
Price:いくらで価値を提供するか
Promotion:どういう手法で提供価値を伝えるか
著者も数多くのクライアントを担当してきましたが、ほぼこの4つの役割に応じて組織が作られていたと考えています。企業のサイズや事業領域の広さに応じて、1つの会社の中で4つの組織を作る場合もありますし、1つの事業の中で4つの組織を作っている場合もありました。
プロモーションを主眼とした時には、いずれにせよその他3つのPに「連動する形」でプロモーションは存在していることになります。本稿冒頭でも申し上げた通り、プロモーションとは「マーケティング活動の一部としてその他要素と連動しながら、提供価値を適する手法を用いながらターゲットに伝えていくこと」となります。
しかしながら、往々にして、プロモーションがその他3つの「P」と「連動しない形」で存在し、いつの間にか「目立つこと」「話題になること」が目的のプロモーションが蔓延していたのも事実だと感じています。また、こちらは余談にはなりますが、デジタルがビジネスで肝要な昨今において、「デジタルマーケティング」という言葉が流通していますが、その多くは「プロモーションのみ」であることが多いです。
理由は2つあると思います。1つ目は、「市場調査が間違って認識されている」点にあります。特にB2Bなどは市場調査がしづらく、市場内全企業の決算資料などの売上を総和して市場規模を算出しなくてはならないため、決算を公開しない企業なども含めた正確な市場規模が把握しづらくマーケティングの根本である市場調査がしづらいです。
その代わり、GoogleのキーワードプランナーやGoogleトレンドを用いて、「検索数」と「推定CPC」によって需要の「量」と市場の「激化具合」を図ろうとしますが、それはあくまで「検索数」=ユーザーの中で「検索した人の数」であり、「潜在的需要」とも「顕在的需要」とも、当然「購入」とも異なります。同時に「推定CPC」も「広告への入札金額」であって、あくまで「プロモーションの中の、リスティング領域への、各社の投資金額」でしかありません。
市場を推察するにはあまりにも事足りていないのです。2つ目は、「プロダクトが可変性に富んでいる」点にあります。例えばSaaS事業などは、競合の月額契約金額を見て収支計算をしたうえで翌日に料金プランを変更することは可能です。
対して、モノ、たとえば食品などは数年前から投資計画を練り、商品開発を行い、工場のライン調整をし、量産しているので後には引けないため、プロダクトの可変性が低いです。つまり、デジタルへの依存度がそこまで高くない、リアル中心のビジネスにおいてはプロダクトをそう簡単には変更できないのです。
他にも要因はありますが、この大きな2つの点から「市場調査」が抜け落ち、「プロダクト」の重要度も下がり、反比例して「プロモーション」の重要性が高まり、結果的に「デジタルマーケティング=プロモーションのみ」となってしまうのではないかと著者は考えています。
さて、本題に戻ります。上述のように「どういう手法で提供価値を伝えるか」であるプロモーションの【目的】は、端的には「認知を獲得すること」になりがちです。その結果、「より目立ち」「より話題なること」が何よりも重視され、いつの間にか目立つ・話題になる「だけ」のプロモーションがあたかも正しいかのように捉えられてきた時代が長く続きました。
その時代が長く続くにつれ、「宣伝部」「プロモーション部」といった専門組織においては、「CM認知率」や「CM好感度」が高ければ良く、結果的に商品やサービスの売上が予定に満たなかった場合でも、それは「その他3Pの責任」としてしまうことも当たり前となってしまい、組織間の責任の押し付け合いが往々にして起こっていた、もしくは今も起こっているのだと思います。
組織間での溝はより深まり、プロモーションは益々「目立つことだけ」「話題になることだけ」に拘泥していくことになっていくのだと思います。そうならないためにも、本稿のステップをきちんと着実に踏んでいくことをおススメします。
プロモーション戦略立案の際に抜けてしまいがちなのが、あくまでマーケティングミックスやその一部であるプロモーションは「市場に対するもの」であるという意識です。すべてのプロモーション施策は市場に対するものであるにもかかわらず、どうしても、
製品の特長をどう伝えるか
安価であることをどう表現するか
流通にどう流し込むか
というシンプルな思考だけがプロモーション戦略立案の際に残ってしまうのです。
市場には必ず競合が存在します
自らの市場地位やシェアがあります
市場には必ず栄枯盛衰があります
プロモーションでもこの視点は必須です。「競合に対する優位性や差別性」を意識して「どう伝えるか」を考えはするものの、自らの市場地位が低いか高いか、市場シェアが高いか低いかでも、プロモーションは全く異なるという点を最も考慮しなくてはなりません。そのプロセスについて順を追ってご説明いたします。
■市場地位確認
まず、市場地位についてです。フィリップ・コトラーが1980年に説いた「競争地位4類型」が最も一般的なフレームワークかと思います。
リーダー:経営資源の量が多く、経営資源の質が高い企業群
チャレンジャー:経営資源の量は多いが、経営資源の質が低い企業群
フォロワー:経営資源の量が少なく、軽資源の質も低い企業群
ニッチャー:経営資源の量は少ないが、経営資源の質が高い企業群
この類型に則った市場地位によって当然プロモーション戦略も変わります。経営資源の量が多ければ、一気に体力勝負に仕掛けることができるかもしれませんが、それでも質が高いか低いかによってキャッチコピーやトンマナは変わってきます。そのあたりを意識しなければなりません。
■市場シェア確認
市場シェアも極めて重要な視点です。こちらにはアメリカの数学者B・O・クープマンが提唱した「クープマンの目標値」を適用します。先のコトラーの競争地位4類型において、同じ「リーダー」であってもシェアによって戦略は異なります。
端的に、安定的トップシェアである41.7%を超えたら、「市場全体の顧客」を増やすことを目標にします。市場全体の新規顧客の半分は自社顧客になるという計算からです。プロモーション戦略においては、「市場自体の魅力を伝えて、他市場から顧客を奪う」ことが目標になります。
次に、市場影響シェア(26.1%)、並列的競争シェア(19.3%)の場合は、とにかく自社シェアを向上させることがミッションになります。「競合に比べて自社の優位な点を伝えて、競合から顧客を奪う」ことが目標です。
それ以下の市場認知シェア(10.9%)や市場存在シェア(6.8%)はいかに「フォロワーからニッチャーになるか」を考えなければなりません。「自分たちが独自の市場を創り、その支配者になる」ことが目標になります。それぞれのシェアにおいてMISSIONが異なる事をご理解頂ければと思います。
プロモーション施策を実施する際に、避けなければならないのは、自らの特長やカテゴリー市場名も何も伝えず、そして市場地位が低いにも関わらず、「社名/商品名のみ連呼」するプロモーションです。
確かに社名は知っていたまたは覚えていたとしても「どんなときにその社名/商品名を思い出せば良いか」がわからない限りは、「~~って知ってる?」と聞かれた時には「はい」と答えられても、自らが何かを購入しようとする際の選択肢には入らないことになるためです。この購入時選択肢入りを「考慮集合」と呼びます。
■市場トレンド確認
市場トレンドによってもプロモーションは全く異なります。
商品やサービスをローンチした直後の導入期でのターゲット群
成長期のターゲット群
衰退期のターゲット群
が全く異なるためです。商品やサービスには必ず栄枯盛衰があります。これは「プロダクト・ライフ・サイクル(PLC)」と呼ばれています。人であっても、年齢によってやるべきことは変わりますよね。プロモーション戦略においても同じことです。
その状態/状況に適したプロモーションがありますので、その意識を強く持つように戦略立案頂ければと思います。そのほかにも1962年にアメリカの社会学者ベレット・M・ロジャースによって提唱された「イノベーター理論」というターゲット推移のフレームワークが存在しますが、そのPLCとイノベーター理論を一つにまとめたのが当社独自のフレームワークである「PLC MIX」です。
なお、このイノベーター理論においては、イノベーターが市場の2.5%、アーリーアダプターが市場の13.5%であり、その先のマジョリティに突入するまでで計16%の普及率が必要です。このマジョリティ突入に至る「16%」こそが市場拡大の「溝=キャズム」となっており、アメリカの経営コンサルタント、ジェフリー・A・ムーアが1991年に「キャズム理論」として提唱しました。
それぞれでプロモーションも「投資」「投資削減」「固定費のみ」と変わっていきます。ターゲット群を主眼に置いた時に、もっと簡素に理解することもできます。下図が「PLCに突合した間口拡大期=新規顧客獲得と奥行き深化=既存顧客維持」の図解となります。導入期から成長期は「間口拡大期であり新規顧客数増」、成熟期から衰退期は「奥行き深化期であり既存顧客の購入数増」ということになります。
市場地位とシェアを把握し、トレンドによってプロモーション戦略を変える意識を持つ、までがステップの3つ目となります。
あくまで「市場に対する活動」として、市場シェア、市場トレンドを勘案し、「何を伝えるか=What to say」「どのように伝えるか=How to say」を規定します。さらに、デジタル広告がこれだけ発達し、複雑になっている中においては「どうやって届けるか=How to deliver」も重要な視点です。
当社ではこの「How to deliver」までを「1W2Hフレームワーク」として常にプロモーション戦略立案時に活用しています。決して「TVCM」「Youtube」「リスティング」という施策から入らず、「What to say」「How to say」から入り、どのような施策で届けるかの「How to deliver」という順です。
「What to say」に関して言うと、シェアやトレンドをプロットすると、ほぼメッセージの「方向性」は定まってしまいます。それぞれでいくつか細かくコピー開発は必要ですが、「方向性」は自動的に定まります。著者も長年広告に携わってきまして、成長につなげられるメッセージの方程式のようなものはあります。
例えばリーダーブランドでシェアが40%以上ある場合、ミッションは市場拡大(+シェア向上)ですが、そのブランドが「成長期」であれば「【人にとって同じ目的を叶える違う市場】のうち、【衰退している市場】」に進出するようなメッセージはワークしました。
逆にそのブランドが「衰退期」であれば「【人にとって同じ目的を叶える違う市場】のうち、【成長している市場】」に進出するようなメッセージはワークしました。同じ目的を叶える違う市場とは「美しくなりたい」という目的に対して「美容院」「化粧」「ジム」という違う市場が存在していて、人の限られた支出を奪い合う、といったイメージです。
なお、総合広告代理店は「What to say」「How to say」が得意であり、デジタル専業代理店は「How to deliver」が得意のような印象があるかもしれませんが、いずれにせよ分業化が進んでおり、網羅的な「What to say」「How to say」「How to deliver」の設計が可能な会社は相当に少なくなっているかと思います。
会社単位では実現できたとしても、いくつもの組織にまたがることで、多くのスタッフが介在し、結局一貫性のないちぐはぐなプロモーション戦略になってしまいがちです。この点、クライアントの皆様はご注意頂ければと思います。
また、特に「How to deliver」はデジタル広告はこれだけ増えているものの、管理画面で自ら配信設計をしている方は極めて少ないです。そのため、軽視されがちではあるのですが、練りに練ったプロモーション戦略がデジタル広告配信設計で曖昧になり結果的にターゲットに情報を届けられないということも増えています。
プロモーション施策を実施・運用していく中で、「CVRを上げたい」「CVを増やしたい」「サイトアクセスを増やしたい」といった具体的な課題を設定し、そしてそれをテクニカルに改善するというプロセスを踏むことが多いとも思いますが、「市場地位の変化」「市場シェアの変化」「市場トレンドの変化」の方が根本的な原因となっていることが多いです。
どうしても「CPC高騰は競合入札の激化」と広告管理ツール上から把握しようとしますが、そもそも市場全体への競合参入が増えているのではないか、または単に市場成長が鈍化しているためにCPCが高騰しているのではないか、などを確認する必要があるということです。つまり、常に市場動向と自らの地位を踏まえながら、プロモーション戦略を立案することになるのです。
KGIと呼ばれることも多いですが、目標は絶対に「売上」であるべきです。なぜなら、よくKPIで用いられる「CV数の最大化」などを目標にしてしまうと、なぜかそのKPIである「CV」などが独り歩きしてしまい、「CVRが低いのでCVのハードルを下げる」ということをしがちになるためです。
CVは、問い合わせや資料請求、ウェビナー参加や見積もりなど多岐にわたりますが、いずれにせよそれらは「本当のCV」ではなく、「CVに導くための途中経過」でしかありません。
CVに視点が行き過ぎると、「CVRが360%に!」「CV数が5倍に!」といった途中経過をゴールにしてしまいがちです。そしてそれらは「CVの設定をユーザーにとって簡単なものにする」だけで達成できるという事も忘れてはいけません。
これまではCVが「問い合わせ」だったものを、「資料ダウンロード」や「ウェビナー」にするだけでCVRは驚くほど向上します。その代わり、資料を作る手間や費用、ウェビナーを開く手間や費用がかかりますので、トータルで見たら本質的な解決に至っていないことが多いです。
「デジタル広告を実施していたが、最終的な売上が結果的に上がっていない」として、当社へご相談されるクライアントも多くいらっしゃいますが、皆様こういった経験をなされているからかと思います。
再三にはなりますが、KPIはあくまで「売上」となります。確かに、需要期が明確ではない業種業態においては、「いつか」売上が上がるものもあります。それらも、最終的にはKPIが売上であることに変わりはありません。プロモーション戦略立案の5つ目のステップは「いつまでに、いくらの売上を、このプロモーション施策によって実現するか」を規定する目標設定となります。
次に設定すべきは「ターゲット」になります。「新規顧客」「既存顧客」といったターゲット群はプロダクト・ライフ・サイクル、PLCによって定まるとお伝えしました。こちらで言うターゲットとはいわゆる「ペルソナ」と呼ばれるものです。
著者としてはこのターゲット・ペルソナ設定こそ、プロモーションの成否を分けると言っても過言ではないと考えています。その昔、今ほどデジタルが発展していなかった時代には、多くの企業が「性別・年齢・職種」といった「デモグラフィック」でターゲット・ペルソナを設定していました。
著者が過去に担当した中にも、「30代男性」とターゲット・ペルソナを規定してしまっているクライアントも多々ありました。しかしながら、今は「意識」の方が重要です。「若々しく居たい」30・40代男性もいます。「足腰の悪くなった」30代女性もいますし。つまり、性別よりも年齢、職種よりも、「若々しく居たい」「足腰が悪いことを軽減・解消したい」という「意識」の方が重要です。
確かに、例えばタレントを起用するとなれば、その中の中心のデモグラフィックを踏まえて、その中心デモグラフィックに対して効果がありそうなタレントを起用することになるため、デモグラフィックも必須となるのですが、優先順位としては圧倒的に「意識」となります。
「意識」は「サイコグラフィック」と呼ばれますが、商品認知や購入意向など、商品に対する意識について、多くは「潜在」「顕在」「ユーザー」とで分類します。また、気を付けなければならないのはそのいずれにおいても、「その市場に対する必要性が【潜在・顕在】」もありますし、「自社商品対する必要性が【潜在・顕在】」もありますので、市場に対する「意識」と自社商品に対する「意識」ともきちんと整理しておく必要があります。
当社では「市場をUS」、「自社をME」としてターゲットを整理する「USMEターゲット」を活用します。なお、この「USMEターゲット」については、既存ユーザーについても同じです。「市場に対する」ユーザーなのか「自社商品に対するユーザー」なのかも極めて重要です。
当然、再三にはなりますが、このターゲット・ペルソナ設定も、市場地位やシェア、市場トレンドとも緊密に連動します。例えば、「A市場への必要性が【顕在】」であったとしても自社の市場地位が低く、シェアも低かった場合に、いくら「Aをはじめよう」とプロモーション施策を実施したとしても、競合に送客する割合が高くなってしまいます。あくまで「A市場への必要性が【顕在】であり、なおかつ競合商品への【不満がある】層」と定義しなくてはなりません。
確かに、ターゲットボリュームは小さくなるかもしれませんが、一生懸命プロモーション施策を実行して、逆に競合が潤うような結果になってしまっては元も子もありません。実際、こういったプロモーションを実施してしまっているクライアントも多くいらっしゃるのではないでしょうか。
プロモーション戦略立案の際に、ターゲット・ペルソナ設定が最もズレが生じやすいステップでもあるため、重ねますが、著者はこのターゲット・ペルソナ設定を極めて重視しています。当然、マーケティングミックスよりもさらに上位である、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の時点で、きちんとこのプロセスが経られているのだとは思いますが、本稿冒頭で「その他3Pとプロモーションが連動していないケースがある」と申し上げた通り、意外にもこの段階でなぜかズレが起こります。
宣伝部やプロモーション部とマーケティング部が別に存在する企業も多かったという、日本型縦割り組織の弊害なのか、それとも、プロモーション段階になると急に「多くの人に伝えたい」とターゲットを広げてしまうためなのかはわかりません。しかしながら、実態として、このターゲット設定でズレが生じてしまうのです。
先のターゲット・ペルソナ規定と同様に、本来であればマーケティングミックスよりも上位にあるSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の時点で規定されている提供価値についても、実はプロモーション段階で「曖昧に」なるケースが多いです。提供価値については、概して「マイナスからゼロに」するものか、「ゼロをプラスに」するものかの2種類があります。さらに、それぞれの中に「機能的な価値」と「情緒的な価値」が含まれます。当社ではこの提供価値整理フレームワークを「VALUE PLOT」と呼び、活用しています。
この価値規定のうち、「機能価値」もまた、市場地位やシェアによって、「独自性」が重要か否か、が決まります。市場のリーダーであり、「クープマンの目標値」で言うところのシェアが40%以上あれば、その「機能価値」はそこまでの「独自性」を有さずとも市場シェアをプロモーションによって高めることは可能です。しかしながら、市場地位やシェアが低い場合は、「機能価値の独自性」は必須であり、その価値の需要性はもちろんのこと、きちんとプロモーションでも伝達しない限り、プロモーションの実施意義がなくなってしまいます。
「情緒価値」は市場地位やシェアよりも、トレンドに左右されるとお考えいただく方が良いかと思います。例えば、導入期であれば「その機能を最も欲する人であるイノベーター」たちに対して、先行者利益をもたらすような情緒価値規定が重要ですし、成長期の中の「その機能を周りの人間と同じように受容したいレイトマジョリティー」にとってはある種焦らすような情緒価値規定が重要となります。話はそれますが、この「周りに乗り遅れないような気持にさせる」ことを心理学で「バンドワゴン効果」とも呼びますが、これは市場トレンドによって用いるタイミングは決まっています。
また、一般的な用語ともなった「マズローの欲求段階説」も、トレンド(プロダクト・ライフ・サイクル)で置き換えると整理しやすくなります。どういったトレンドかによってどういう「情緒価値」を規定するのかが決まっていきます。
とにもかくにも、市場地位やシェアを踏まえて機能価値を規定し、市場トレンドを踏まえて情緒価値を規定して、プロモーション戦略立案のための7つ目のステップが終了します。
目標売上に対して、業種業態である程度広告宣伝費率、つまり広告予算はすぐに規定されます。どれくらいの広告予算をプロモーション施策に充てれば良いのか?に対しては、すぐに算出可能なのです。余った利益を使う、などと広告予算を設定してしまうと、何の「資産」にもならない可能性があるため、著者としては他の、例えば設備投資などに回した方が良いのではとも考えています。
プロモーションを行う商品またはサービスの売上目標を、短期・長期で設定した後は、ほぼ業種業態で広告宣伝費率は決まっていますので、その上限を踏まえることをおススメします。例えば食品飲料業態であれば10%が上限です。企業によっては販促費と広告宣伝費を別建てすることもありますが、その場合はそれら全てを合わせて、とお考え下さい。
もし潤沢に資本があるのであればこれ以上の投資でも問題ないですが、多すぎる広告予算で目標を大幅に上回ったケースを著者は知りませんので、やはり適正予算での実行がよろしいのではないかと思います。
現在のプロモーション施策は多岐にわたります。著者はその多くを経験してきておりますが、類型化すると8類型におさまるのではないでしょうか。当社では「プロモーションミックス8」と呼んでいますが、まずは「デジタル」と「オフライン」があります。
ここではわかりやすく「ON-LINE」と「OFF-LINE」と分けることとします。さらに、それぞれの中に「PR」「AD(広告)」「SP」「OWNED」があります。「ON-LINE」「OFF-LINE」共に「AD」は最もわかりやすいかと思います。
「PR」の「ON-LINE」はデジタルメディアやSNS上での「バズ創出」です。「SP」の「ON-LINE」はLINEを活用したサンプリングなどがそれにあたります。逆に「OWNED」の「OFF-LINE」は直営店舗とお考え頂ければと思います。その8つのプロモーション類型から、市場地位やシェア、市場トレンドに応じて適切な施策をプロットしていくことになります。
今でもまだTVは絶大な伝搬力があります。広告としての効果は常に疑問視をされてきましたが、「TVで取り上げられる」ことは相当に大きな売上増大要因です。例えば導入期であった場合に、「市場自体を創り上げる」こともミッションになりますが、その場合は自社だけでのAD(広告)実施だけではなく「このようなものが登場した」とTVで取り上げてもらうことができれば、瞬間的に爆風が吹くことになります。
逆に衰退期の場合は、「OFF-LINE」であれば自社店舗によく来て下さるロイヤルユーザーに向けて、「ON-LINE」であればサイトによく訪問してくださるロイヤルユーザー向けに、それぞれにおける「SalesPromotion(=SP)」施策を実施して、再購入や複数購入を促します。
このように、トレンドによって優先的に選択する施策は自動的に決まります。また、価格帯も重要な要素です。高いものは比較検討することが多いです。安いものは比較検討せずに購入することが多いです。
一部のお金持ちは高級ブランドのような高額消耗品を、比較検討せずに購入することもありますが、それは例外的な話です。比較検討は、主に「ネット検索(SNS+検索エンジン)」をするものとなりますので、「高価格=ON-LINE中心」「低価格=OFF-LINE(+ON-LINE)」という構図が出来上がります。そのため、価格によって「ON⇔OFF」のどちらを優先するかは凡そ決まります。では、「高価格の目安はいくらか?」と聞かれると業種業態には当然よるものの、「1000円以上なら高価格」として頂いて構いません。
こちらはデジタルプロモーションにおいても全く同じことが言えます。下図の「デジタルプロモーション・トレンド」にもありますように、導入期は認知率が低いのでSEO等でカテゴリー検討者にいかに知れ渡るかが大切になるため、デジタルですとSEOが重要です。
中でも「一般ワードのうちのビッグワード検索者」に対して自分たちが検索結果上位に上がるように、サイト構築またはSNSアカウント構築を行う必要があります。この際、自社の「指名検索」はほぼ行われません。指名検索がない為、広告で社名認知を獲得するような設計をすること自体は可能ですが、サイトやSNSアカウントのコンテンツがリッチになっていない限り、「聞いたこともないブランド」の商品を購入したり、契約したりはしません。
まずはSEO的視点に立ってサイトやSNSアカウントのコンテンツをリッチにすることの優先順位を高めるべき時期になります。導入期をこえ、成長期になればYoutubeやSNSなどのデジタル広告で自社の認知を高め、指名検索・指名買いを促す施策を実施します。
成熟期を経て、衰退期に突入した場合は、奥行きを深める時期ですので購入接点に近い場所であるサイトや、たとえコンビニやスーパーのようなリアル販路であっても、デジタルプロモーションにおけるSP(=Sales Promotion)施策を実施します。デジタルプロモーションにおけるSPの代表格はLINEかと思います。
なお、当然のことながら、PRはこちらがいかに設計をしても、メディアが主体者であり、計画通りにはいかないことも多いので、主たる施策にはおかない方が良いと著者は考えております。本類型を用いる目的はたった一つで、「抜け漏れを防ぐ」ためです。どうしても今まで行ってきた施策に固執すると「改善施策」しか実施できなくなります。
成果が上がっていて、改善によってより高い売上を見込めるのであればそれでも構いません。しかしながら、今までの施策に偏りがあるクライアントも多く存在するとは思いますので、今一度視座を高く、視野を広げてプロモーション施策を検討すべきかと思います。また、プロモーション施策立案の際、実施における最低費用も重要なポイントです。
例えばTVCMを実施するにあたっていくら必要か?と聞かれた場合、著者は「最低2億円です」と答えることが多かったように思います。確かに、一度きりのTVCMをキー局で流そうと思ったら、今は100万円からでも出稿することは可能です。しかし、それは「TVCMで何とか流す」ことが目的となってしまい、手段が目的化してしまう瞬間でもあります。
運用型TVCMを標榜する企業は数多存在していますが、著者も過去累計数百億円以上のTVCM予算をクライアントから預かって運用しておりましたので、いわゆる閾値は理解しているつもりです。2億円以下のご予算であれば、必ず他の施策をご提示しています。
逆にデジタル広告などは単純に「媒体費」という意味では10円からでも実施可能です。こちらはTVCMのような閾値は存在せず、少額の場合はいかにセグメントをしっかりするか、というだけですので、下限予算のようなものはありません。この最低費用も勘案して、プロモーション戦略を立案する必要があります。
これまでのステップでプロモーション施策をある程度選択できたら、さらに、そこに抜け漏れがないかの確認作業が必要です。施策の漏れは8類型で抜け漏れを確認し、購買行動における抜け漏れを確認する作業となります。そこで、「ファネル」などの購買行動モデルに落としてみることをおススメします。日本人は流行りものが大好きです。おそらく広告に従事する人間も、流行りものが好きな方が多いのではないでしょうか。
この5年でも「カスタマー・ジャーニー・マップ」や「パーセプション・フロー・モデル」「フル・ファネル」など多くの購買行動モデルフレームが登場しましたたが、やはり主流は「ファネル」だと思います。どの資料を見ても、広告代理店の資料にはこの「ファネル」が登場している気がします。さらに、昨今では「エレベーター型」も多用されるようになり、一般化しつつあるかと思います。
「エレベーター型」は概念的なものでありますし、何も今に始まったことではなく、フィリップ・コトラーの「マーケティング4.0」の中のカスタマージャーニー5Aモデルとしても登場していますし、形に惑わされずに見ると、AISASやAIDMAといった20年以上前から存在する購買行動モデルと大差ありません。
図解のわかりやすさはあるとは言え、本質的には同義ですので、ファネルであってもカスタマー・ジャーニー・マップであっても、パーセプション・フロー・モデルであっても、プロモーションの結果に大きな差がつくわけではないのと、それぞれに長短が存在しますので、「とりあえずファネルで抜け漏れを確認する」程度の認識でよろしいかと思います。
マーケティングミックスにおけるプロモーション戦略立案において、その実行を目的としなければ絵に描いた餅でしかありませんので、実行計画の最たるものであるスケジュール作成と相成ります。先の最低予算同様に、すべてにおいて「最低期間」が必要となりますので、そのうえでプロモーション戦略を立案する必要があります。
例えばTVCMであれば単にCMを制作するだけではなく、TV局に対する「考査」なるものが存在します。そのクライアントが「きちんと」しているかの「業態考査」と呼ばれるものがあり、次いで「企画考査」へと続いていきます。
SNSなどのデジタル広告の「審査」はすぐに終わりますが、TV局は公共の電波を扱う免許事業でありますので、中でも「業態考査」はネックになります。そこで初めてのTVCMとなる場合はこの業態考査を踏まえて半年は期間的猶予を持つべきかと思います。そして、プロモーション施策で最も準備時間がかかるのはPRでしょう。
新たな情報でないとTV局は取り上げてくれない、しかし「驚くような情報」は持っていない、となった場合に、「情報自体の開発」から取り掛かる必要があります。その情報開発に時間がかかるのです。きちんとした情報を開発するのに、1年や2年かかるのはよくあることです。こういったリードタイムもすべて把握したうえで、いつプロモーション施策を実施し、そ成果を求めるのか、それまでにどういったスケジュールで進むのか、も明確にする必要があります。
ステップ⑫プロモーション戦略立案その10「本当に成長するのかを最後に疑問視する」
デジタル広告が主流となった昨今、「デジタルの改善提案」こそがプロモーション戦略立案かのような印象すら受けます。しかしながら、著者としては「まったくの別物」と考えています。
改善提案は「現状のデジタル広告では損をしている」「取り逃している」が主たる論旨となりますが、重要なのは「成長戦略」ではないでしょうか。ビジネスでは「成長戦略」と「コストダウン戦略」の双方が重要であり、その双方に絡む形で「DX」が潮流となっていると考えております。
この「DX」については別稿に預けるとして、「コストダウン戦略だけではなく、どのような成長戦略を描くか」がプロモーション戦略立案の肝になるのではないでしょうか。今一度、「このプロモーション戦略で成長が実現できるか」について、ある種否定的な視点で見返して頂ければと思います。
現在も広告代理店にお勤めの方、または広告代理店と仕事をした方ならわかると思いますが、クライアントが提案依頼を行い、実際に広告代理店側から「プロモーション戦略」を提案されるのは1カ月程度が目安なのではないでしょうか?これまでプロモーション戦略のステップ等について記載してきましたが、実際になぜそんなに時間がかかってしまうのか、クライアントにとっては不思議なことだと思います。
その答えはシンプルでして、「セクショナリズムの壁」と「サラリーマン的気配り」がその主な理由です。1つのプロモーション戦略を練り上げるまでに多くの部署が関与することが多く、その日程調整や打ち合わせの設定で日が暮れます。クライアントからしたら「まだ?」とお思いになられるとは思いますが、広告代理店側もクライアントには無関係のところで「ずっと調整をしている」のです。
ビジネスのスピードが速い昨今において、各広告代理店もこの提案までのスピードアップを各社こぞって行っています。「プロモーション戦略提案まで時間がかかる」こともスケジュールに入れておいて頂ければと思います。
以上で、プロモーション戦略立案、13のステップは終了です。これらができましたら、資料にまとめて確認してみてください。おそらく、とてもシンプルな戦略になっていると思います。抜け漏れなく、重複なく、矛盾なく、立案された戦略は、プロモーションに限らず、極めてシンプルに見えるものです。ただし、どの領域においても、詰めの甘さや抜け漏れもないため、「成功の可能性が極めて高い」プロモーション戦略が立案されていることと思います。
プロモーション戦略立案は企業にとって必須なものです。しかしながら、どうしても知識が歯抜けになってしまい、適したプロモーション戦略を立案できている企業は少ないのではないでしょうか?本稿ではどういう視点でどういうデータを集め、自らの置かれた立ち位置に応じた、適切なプロモーション戦略立案の方法をご説明してきました。ご自身でプロモーション戦略立案をされる場合も、広告代理店に依頼する場合も、本稿でご説明差し上げた内容に沿って戦略を立案し、ビジネスを成長させていって頂ければと思います。
じっくり読みたい方のためにE-bookもご用意しております。
【完全版】プロモーション戦略
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