B2Bのスタートアップ企業は、当然のごとくデジタルへの投資を最優先とする。そこで、その規模を問わずネット系代理店が、「マーケティング」という言葉を使うが、これは主に「デジタルマーケティング」を指すことが多い。また、そのデジタルマーケティングも、市場創造や発見、市場拡大、市場撤退などではなく、主には「デジタルプロモーション」を指すことが多い。総合広告代理店勤務時代の17年間、10社以上のネット系代理店と協業してきたが、基本的には「基礎的なマーケティング」を理解しておらず、独自解釈の「マーケティング」という言語を使っていた。ネット系代理店の「マーケティング」は良くて「デジタルマーケティング」であり、それは基本的には「デジタルプロモーション」のことであった。本稿では、マーケティングとデジタルマーケティング、そしてデジタルプロモーションとの違いについて説明していく。
目次:誤解されつつあるマーケティング
マーケティングの原則は4Pであることに変わりはない
デジタル化の波に押され、世の中で語られる「マーケティング」は、元来的な意味の「マーケティング」とは異なってきている。デジタル広告などで見聞きするような「マーケティング」は主に「デジタルマーケティング」を指しており、しかも、プロダクト設計や価格設計、流通設計などではなくプロモーション領域だけを指すことが増えてきている。元来的なマーケティングは、マーケティングミックスと呼ばれる4Pや3C、さらにはSTPやSWOT、PEST分析などを経て行う「売れる仕組みづくり」であった。商品であるProduct、流通のPlace、価格のPrice、広告・宣伝のPromotionの、それぞれの頭文字をとった4Pがマーケティングミックスであり、その戦略の優劣によってビジネスの結果に大きな差を生んでいた。自社であるCompany、競合のCompetitor、顧客であるConsumerの頭文字をとった3Cもビジネスの際には欠かせない視点である。市場分析の際には、Segmentationと呼ばれる市場細分化があり、市場で狙いを定めるTargetingがあり、どう市場での立ち位置をとるかのPositioningを意味するSTPも必須である。同時に、もっと俯瞰して社会全体からの市場を見る際には、Political=政治的側面と、Economy=経済的な側面と、Society=社会的な側面と、Technology=技術的な側面から市場を俯瞰して整理する手法もある。これらをすべて整理して、強みであるStrength、弱みであるWeakness、機会であるOpportunity、そして脅威であるThreatで整理するSWOT分析を行わなければならない。デジタルマーケティングではこういったフレームワーク自体を否定するような主張も散見できるが、データの取得先が各所デジタル接点になっただけで、基本的なフレームワークが不要になるわけでも、または意味をなさないものになるわけではないのである。「デジタルマーケティング」の提唱する売れる仕組みづくりは、マーケティング・オートメーション、つまりはMAのことを指すと誤解しがちであるが、ツール導入による短期的な売上増などではなく、きちんとフレームワークに則って中長期的な戦略設計を行う事こそが、必要不可欠と著者は考えている。
デジタルプロモーションをマーケティングと呼ぶ理由
元来的なマーケティングに携わってきていないため、マーケティングという元来的な意味を理解せず、デジタルプロモーションのことをデジタルマーケティング、またはマーケティングと呼んでしまうケースが多いように思える。著者は2004年の総合広告代理店入社直後から、広告主のマーケターと常に向き合ってきたが、大手広告主のプロマーケターたちが持つ視点やプロセスは昨今の流行りコトバとなっているネット系代理店の「マーケティング」とは相入れない。短期的な売上拡大のためには、成長接点であるデジタルが重要なことに間違いはないが、基礎的なフレームワークを知らずに戦略を練ることは、ソナーがあるからと言って、羅針盤無き船で、海に出るようなものである。確かに数字は把握でき、問題点も把握できるが、本質的な課題発見がなされず、戦略の誤りに気付かず、戦術面で対応策を講じてしまう。結果的に、短期的には売上が獲得できる可能性はあるが、中長期的な売上拡大にはつながらないのである。
短期的な課題発見よりも、本質課題発見を
人間は数字によって理解しやすい脳の構造となっているため、つい数字があると安心してしまう傾向にある。昨今のデジタル系プレイヤーの多くがこのトリックを使って顧客を説得していると思われる。しかしながら、本当に重要なことは、オンラインかオフラインかに関わらず、戦争に端を発する「戦略」、そして長年のビジネスを統計的に観察することによって生まれた「フレームワーク」である。ビジネスの初歩を一足飛びにしてしまっても、場当たり的な解決策の提示しかできない。広告主も1年以上の付き合いとなると、短期的な解決策しか提示できない企業に対して疑念を抱くようになるのである。
デジタルマーケティングは「マーケティング」ではない
ここまで述べてきたように、マーケティングとデジタルマーケティングは、プロモーション領域から出ているか否か、基本的なフレームワークへの造詣があるか否かで、全く別物となっている。このあたりは、実は広告主も理解していて、一度は期待してネット系代理店に依頼した内容が、結果的に総合広告代理店に戻ってきてしまうことも多かった。それは上記の、本来的なマーケティング知見を有さず、デジタルマーケティング知見、もっというならデジタルプロモーション知見のみで対応してしまうがために、広告主との長期的なパートナーシップを締結できないことに起因する。
デジタル化の波は加速の一途をたどると著者も考えている。しかしながら、テクノロジーを使う以前の問題として、基本的なマーケティング知見を有していることが、本来的な成長戦略立案になることを理解すべきであろう。「広告カウンセリング会社」である当社では即座に市場トレンドを把握する「PLC MIX」や即座にブランドのトレンドを把握する「BLC」を開発したが、こういったフレームワークを多用してほしいと考えている。
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