ビジネスの原則は利益であり、決して売上ではありません。確かに株主が成長を見るときには、利益よりも売上を重視することもありますが、会社の給料源泉が利益であることに変わりはないかと思います。広告代理店を初めとするB2Bプロフェッショナルサービスは「マージン」「コミッション」「フィー」の3種の利益確保方式があります。17年総合広告代理店に勤め、中間管理職でもあった著者が、「マージン」「コミッション」「フィー」の性質と違いについて説明していきます。
※2022年9月23日改稿
本稿はこのような方におススメです
✔ マージンとコミッションとフィーとでどう違うのかわからない
✔ マージンとコミッションとフィーが広告代理店の見積もりに混在していてわからない
✔ 同じような意味として用いているが、きちんと違いを知りたい
✔ 広告代理店のフィーが高い
目次:「マージン」「コミッション」「フィー」の違いとは?
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広告代理店における利益確保
著者が勤めていた総合広告代理店はその成り立ちから長らく、「マージン」によって利益を獲得するビジネスを展開してきましたた。最近、「急に広告代理店の見積もりにフィーが上乗せされてきて、それぞれの違いがよくわからない」というお話、ご相談をよく受けますので、広告代理店の利益確保の方法を、「マージン」、「コミッション」、「フィー」に分けてご説明していきたいと思います。
❶マージン
仲介代理業/販売代理業にとっての主たる利益源泉で、媒体社などの仕入先から顧客に対する販売価格を設定される形で提示され、販売した価格のうち手数料を顧客にはわからない形で仕入れ先から徴収する形態
└「グロス」:仕入先による販売価格の設定
└「ネット」:マージンを抜いた形で媒体社などに支払う金額
広告代理店に限らず、仲介代理業/販売代理業を介在させるビジネスでは、マージンが主たる利益源であり、総合広告代理店においてマス媒体はすべてマージンによる利益確保ビジネスです。
・マス広告(TV・ラジオ・新聞・雑誌・OOH)
・予約型Web広告(Xトレンドテイクオーバー等)
❷コミッション
仕入れに対して一定のコミッション、つまりは手数料を上乗せして顧客に提示する形態
└「原価」:一般的な原価と同義で仕入れ値
本来は、顧客に対して手数料が開示されてしまう利益確保形態で、総合広告代理店においては、イベントや制作物などに対してコミッションを上乗せして広告主に請求します。「進行管理費」「営業管理費」「管理費」「間接費」と呼ばれる項目です。近年では、GoogleやYahoo!のリスティングやディスプレイ、YouTube、X、Instagramなどの運用型Web/SNS広告が増えていますが、それらは媒体社から広告代理店に対してのマージンが設定されているわけではなく、すべて広告代理店が自らコミッション率を設定しています。広告主が各プラットフォームのアカウント閲覧ができれば広告代理店のコミッション率はわかるのですが、エクセルでの報告や請求書にはコミッションを含んでの「広告費」として出てきてしまうため、実際に何%のコミッションを広告代理店側が得ているのかわかりかねます。この運用型Web/SNS広告のコミッション率の不透明さが、多くの広告主を不安にさせ、広告代理店に対して懐疑的にさせてしまっている理由の1つとなっていると思います。
・イベント
・キャンペーン
・各種制作物
・運用型Web/SNS広告 *実際は広告主に開示されず
❸フィー
弁護士なども広義にはフィービジネスになるが、時間単価で決めることや、内容に応じてフィーを請求する形態
└「タイムフィー」:時間当たりの単価を規定して、かかる稼働時間をかけて請求
└「プランニング/ディレクション/プランニングフィー」:企画や進行にかかる一式のフィー
広告代理店における「フィー」とは、クリエイティブスタッフやコミュニケーションプランナーについてフィーで請求する形態です。フィーは「タイムフィー計算」か「一式」かの2通りがありますが、外資系広告主では当たり前であるものの、日本の広告主にはまだまだ浸透しきっていません。見積もり上は利益が不明確なマージンに慣れてしまった広告主は、この「フィー」を受け取りづらいというこれまでの商慣習の名残と、フィーを要求できるほどのプロフェッショナリズムを広告主に感じてもらえないという広告代理店側、プロフェッショナルサービス提供側の提供価値の低さの双方に原因があると思います。
・クリエイティブディレクターフィー
・コピーライターフィー
・CMプランナーフィー
・アートディレクターフィー
・各種プランニングフィー(デジタルプランニング/メディアプランニング/PRプランニング等)
・各種ディレクションフィー
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マージンビジネスの性質
仲介代理業や販売代理業で採用されているマージンビジネスは、たとえば広告代理店で言うところのTV局や新聞社のような媒体社に広告費をいくら支払ったか(送り込んだか)によって、マージン率、つまりは利益率が、媒体社側によって決められます。一般的には、多くの費用投下をしたことで、マージン率が上がることの方が多いです。
さらに、年間での費用投下についてあらかじめ定めることが多く、一定程度の費用投下をすれば、年度末で「さらにマージンを上乗せして」支払先から代理店に渡すこともあります。これを特別契約、特契などと呼びますが、ある特定顧客のマージン率がたとえ低くとも、多くの費用を仕入先に投下しさえすれば全社に対して特契の恩恵があるため、全社視点だと利益が増えることもあります。広告代理店を例にとると、大量にTVCMを流すような特定の広告主は、コンペ等を行い、代理店にマージン値下げ競争を強いますが、受ける広告代理店側も、たとえその当該広告主のマージン率が低く単体では営業赤字になろうとも、その発注額が媒体社と決めた特契を超えるような金額であればマージン率も上がり、結果的に全社として利益を見込むことができるようになるということです。
広告代理店の利益源泉は今もまだマージンですが、広告代理店の成り立ちから考えれば至極当然です。なぜなら、元々の広告代理店は、媒体社、たとえば新聞などの広告枠を「代理して広告主に販売する仕事」だったためです。2000年頃から媒体枠への依存を下げるために、「広告会社」と自らを呼び出して、その後「クライアントの代理」である「広告代理店」に呼称を戻すという流れがありました。
媒体への費用投下を優先するがために売上至上主義に
上記のように、特契の存在によって単体広告主の営業利益を抜きにして低マージン率で媒体社への費用投下(送り込み)を優先することが多くなり、いつしか広告代理店全体の利益意識が脆弱になっていきます。特定広告主のマージン額が低くとも、全社での貢献を鑑みて特契での媒体社からのマージンバックを目的に、とにかく「媒体社への媒体費送り込み」を優先しようと、全営業部門が考えてしまっては、さすがにマージン上乗せがあっても全社での利益確保はままなりません。
それでもなお、広告代理店は売上、つまりはグロスを高めようとする方が利益確保は容易であると考えています。これには、比率が高まっているフィー契約の限界を感じていることが理由として挙げられます。総合広告代理店やデジタル専業広告代理店がひたすら「媒体」の提案を行うのはこのためです。
フィービジネスの限界
フィービジネスは、上述のようにその費用を支払うに値するかどうか、が広告主最大の視点になります。1時間当たり、または1つの企画に対して、そのタイムフィー・プランニングフィーは妥当なのか、という精査が行われます。
マージンでは広告代理店側の利益は見えづらかったのですが、広告主からの媒体費マージン値下げ要求が強く、広告代理店として利益確保がしづらくなったがために、結果的に見積もり上に「フィー項目」が増えました。しかしながら、たとえば戦略領域において、自ら調査を行い、戦略を立案している広告主に対して、たとえ広告代理店が市場調査案件を受注したとしても、それ相応の発見や示唆がない限り高額なフィー請求をすることは難しくなります。
さらに、CMなどのクリエイティブにおいても、安価に制作ができる制作会社が増加しつづけているため、企画フィーへの精査が厳しくなり、なかなか請求できないことが増えています。つまり、フィー取引は増えたが正価でのフィー請求は難しく、結局利益が見えづらいマージンへと逆戻りするような利益確保方法が主流に戻りつつあるのです。もともとの費用対効果、つまりは稼働に対して利益率及び利益総額の低いビジネスは、総合広告代理店としては、その従業員の多さや平均給与の高さから、選択できないのです。
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マージンビジネスに戻りつつある中で薄れる利益意識
前述のように、広告代理店はフィービジネスの頓挫によって、悩んだ挙句に再び媒体を中心としたマージンビジネスに戻りつつありますが、結果的に売上意識「だけ」が再度高まることになり、利益の意識が薄くなっています。
フィービジネスで利益確保ができるプロへ
著者はフィービジネスで利益確保ができるほどの「プロ」になれば良いのでは、と考えています。高すぎるフィーはどうかと思いますが、きちんと妥当性を持ってさえいれば、そのフィーは受け入れられるはずです。この「プロ」意識こそ、広告代理店の利益確保のポイントに他ならないのではないでしょうか。
しかしながら、高額なフィーのわりにレスが遅く、期待していたものとは違うものが提案として上がってくることが多い広告代理店。期待を超えてほしいのに、期待を外してしまうことが多いとあらゆる広告主から聞きます。理由については「「提案が遅い」と言われてしまう広告代理店の「裏事情」」でも説明している通りですが、プロであれば即座に成長確率の高い戦略が思いつくはずなので、そうではない企業構造となっている現時点を踏まえると、極めて厳しい道のりになることは間違いないのではないでしょうか。
業界全体が衰退期に入っている中、フィーで利益を確保できるかどうかが、総合広告代理店存続のカギとなると著者は考えています。当社はフィーのみを利益源としております。その観点から、「フィーの相談所」というサービスも展開しております。もちろん、無料です。フィーにお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。
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